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商業主義の陰謀に対する傾向と対策


3月中旬のとある金曜日:

きーんこーんかーんこーん

終業のチャイムだ。教室の空気がざわつきはじめる。

楽しい楽しい週末。が、僕は忙しい。明日のための重要な仕度がある。

そそくさと道具を鞄につめこんで、いつもの場所に行く準備をする。今日も彼女はきっとあそこにいる。今日も晴れてるから。

ぎぎぎぎぎぎぎ…

重い鉄の扉をゆっくりと開く。空はまだ青い。日は日毎に長くなる。

いつもの場所に彼女はいた。じっと空の一点をみてる。細い綺麗な髪の毛がふわっと風になびく。彼女は今日もここで電波の色を受け止めている。

ちりちりっ

僕に気付いた。にこっ。振り返って微笑む。

ゆっくりと彼女のほうに近づいていく。

「や、瑠璃子さん。今日の電波状況はどう?」

彼女もとてとてと歩いてくる。

「くすくす。良好だよ」

ぴとっ。瑠璃子さんのおでこが僕の胸にふれる。

でまあ、いつもならここでn時間ほど(日によって範囲はいろいろ)二人ですごしたりするのだが、今日はそういうわけにもいかない。

「瑠璃子さん、悪いんだけど、今日はちょっと早く帰らないといけないんだ」

「そうなの? …じゃあ、一緒にかえろうか」

ととと

「ごめん、今日はちょっと一人で帰りたいんだ…」

きょとんとした目の瑠璃子さん。

「どうして?」

むぅ、なんて言おう。

えーと、えーと

「…くすくす。いいよ。私はもう少しここにいるから。先に帰ってて…」

あ、良かった。でもわかっちゃったかな? やっぱ(^^;

「ごめんね。じゃあお先に…」

…ふう

この行事は各種業界の陰謀によるものだよなーとは思うのだけど、ま、一応ね。不況な経済状況にすこしでも貢献するって意味もあるし(ないってば)。さすがに「親しい友人や恋人に感謝の気持をあわらす」という本来の意味が一応ある2月のとはちがって、こっちは背景が全然ないから今いちもりあがりに欠けるようだけど。

商店街。いろんな店でいろいろその手のものがならんでる。しかし、何を買えば良いのだろう。んーー。瑠璃子さんが喜びそうなものかぁ。そういやそもそも瑠璃子さんにプレゼントの類って特にあげたことがないよなぁ。特に物なんていらないといえばいらないんだけどね。電波あるし。

ま、今回は良い機会ってことで。

おや? あれにみえるは月島さんだ。一応挨拶しておこう。

「こんにちは、月島さん」

「ああ、渡辺君」

「こんなところで会うなんて珍しいですね。今日は何か買い物ですか?」

「ああ、ちょっとね…」

あ、そうか。月島さんも瑠璃子さんにお返しか。

「お菓子とかあたりが無難なところですかねぇ」

「うーん。どうだろ」

「瑠璃子さんってどんなものが好きでしょ」

「そうだな……って…瑠璃子にお返しなのか」

「え、まぁ」

「ぬぬぬぬぬ…まあいい」

「しかしまあいろいろあるもんですね。スタンダードなクッキーとかのお菓子から、小物、化粧品、アクセサリ、バッグ、スカーフ…下着まで(汗)」

「下着…」

「瑠璃子さんは肌が白くてきれいだからこーいう派手なのももしかしたら似合うかもですねー…はっ」

「みーーたーーのーーかーーー」

がくがくがく

「あうう、月島さん苦しいぃぃ」

「サイズまでしってるのかーーーーーーー」

がくがくがくがくがく

「はうぅう、冗談ですよぉぉぉ」

…ふう、ひどいめにあった…かなり目立ってしまったし。

月島さんは結局ハンカチを買っていったようだ。さて、僕はどうしよう…

  1. 無難にお菓子
  2. ここは奮発して高級なバッグ
  3. 下着(爆)

3… なわけないって(^^;;;;

うん、無難にいこ、無難に。それだけだとちょっと淋しいから、そうだな、なにかアクセサリーでも。

とりあえず、電気の粒^H^H^H^Hチョコチップ入りの手作りクッキーを買って、綺麗なラッピングにリボンをかけてもらう。そうだね、日頃のオモイをちょっと言葉にってことでカードも買っておこう。オモイは言葉では伝えきれない(電波で届いたりするけど)って良くいうけど、こういう言葉に込めたオモイってのも嬉しいもんだ。うん。

で、アクセサリとか売ってるお店へ。指輪…はまだちと早いな(^^;
ネックレス…うーん高いぞ。

…はっ。こ、これは…何だ? 台座のようなものの上になにか線がたっている。その線は枝分かれしてて、まるで…

「あの、これって、何なんですか?」

店の人に聞いてみる。

「ああ、これいまはやってるんですよ。頭の上にのせるんです」

……絶対嘘だ。こんなののせてる人みたことないぞ。でもなんか瑠璃子さんに似合いそう……やめとこ。

あ、このイヤリングなんてどうだろう。水の雫をかたどったシンプルなデザイン。あざやかなブルーが、瑠璃子さんの綺麗な髪と白い肌によく映えることだろう。お値段もお手頃だし (^^;

「これ下さい」

さ、これで買い物は終了。帰ってカードの文面でも考えよう。

土曜日当日:

さーて、瑠璃子さんちにいこうか。ついでにちょっとデートってのもいいかも。突然だけどまあダイジョブだろう。たぶん。

「あ、ちょっと」

ん?

「暇ならちょっとお届け物してきてほしいんだけど」

んー暇ってわけじゃないけどまあいいか

「どこまで?」

「●●町の□×さんのとこ」

げ、ちょっと遠いや、ま、時間はあるしいいか。

「わかった」

「あ、あとついでに銀行でお金おろしてきて」

「おっけ」

これがけちのつきはじめだったんだよなぁ

届け物を届けるまでは良かった。そのあと帰りの電車が事故で止まって立ち往生。

…むむむむなんか時間かかりそう。しょうがないちょっと距離あるけど歩くか…昼すぎにはつくだろう。

で、つかれながらも到着して、銀行によると、なんと銀行強盗がちょうどお金を下ろしてるところにやってきた。ふつーそうそう事件なんておこらんぞ。月島さん^H^H^H^H誰かの陰謀か?

そのままさっさと去ってくれればまあ僕としてはどうでもよかったんだけど、もたもたしてるうちに警察きちゃってたてこもっちゃうんだもんなー。

時間だけがしずかに積もっていく…

…しょうがないな。

ゆっくりと、じわりじわりと、力を解放する。回りに影響しないように、慎重に、力を一点に集中させる。

ちりちりちりちりちりちりちりちり

収束されった電波は、ただ一人だけを確実にからめとった。

傍目にはなにがおこったか全然わからなかったことだろう。犯人が突然銃をおとしててたおれてしまったので、みんながそれを押さえ込む。そこに警官が突入してきて一件落着。

ざわついてる現場をそそくさとあとにする。

ああ、もう夕方だ。急いで瑠璃子さんちに行かなくちゃ。

…結局デートはできなかったなぁ。とか思いながら呼び鈴をおす。

ぴんぽーん

「おや、君か」

「あ、月島さん、こんにちは。瑠璃子さんは?」

「今、留守にしてるが…」

あれ? どこにいっちゃったんだろう?

だいぶ日がかたむいてきた。もたもたしてると夜がきてしまう。

耳をすます。瑠璃子さん…どこ?

ココロをとぎすます。電波の波がボクの体をつぎつぎとつきぬけていくのがわかる。そのまざりあった波のなかの、特定の波長、特定の波形を探す。

やわらかであたたかい波。瑠璃子さんの波動。…みつけた!!!!

あそこで僕を待っている。

走る、走る。某所の扉からこっそり入り、階段をかけのぼる。重い扉をゆっくりと開く。

ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ

赤。赤が世界をつつむ。長い影がすっとのびる。彼女はゆっくりと振り返ると、かるく髪をかきあげて、微笑みをうかべた。

「ごうちゃん、電波届いた?」

二つの影が一つになる……

……

「ねえ、あけてもいい?」

「もちろん」

……

「くすくす。ありがと…」

カードを読みながら瑠璃子さんがにっこりと微笑む。カードの文面は自分で言うのもなんだが、かなり恥ずかしいので内緒。

「こっちは何かな? …あ、綺麗」

「瑠璃子さんに似合うかなーと思ったんだけどどうだろ?」

「これすごいよ。電波を増幅する力がある」

「え゛ほんと?」

なんと、あの店はそんなものを扱ってたのか…となるとあの頭にのせるやつは…

「冗談だよ。くすくす」

あう

「つけてみるね…どうかな?」

「うん、にあってるよ *^^*」

「大事にするね……」

瑠璃子さんを包むやわらかな電波がいっそう柔らかく、綺麗になったような気がした。

二人で寄りそってクッキーをたべたりする。チョコの粒が芳ばしいクッキーの味をひきたてていてなかなかおいしい。

「ホワイトデーって、Mr. ホワイトって人が、戦争で生き別れになった恋人の名前をつけたお菓子をつくったらそれが有名になって、それがきっかけになって3月14日に再会したって話からきてるんだってね」

「……あの、瑠璃子さん…」

「なぁに?」

「それ、誰から聞いたの?」

「おにいちゃん」

「……」

終わり