…玄関を出る。今日はからっと晴れた秋空になった。こんな日はよく電波が届く。すがすがしい朝の電波を集めてみる。
悲しい電波、怒った電波、冷たい電波、笑った電波…
いろんな電波がまざりあっている。朝の電波はとぎすまされていて、なんだか奇麗だ。そんな中に、ひときわ目立つ電波の結晶がある。暖かくて、優しくて、そしてすこしはかない…瑠璃子さんの電波だ。瑠璃子さんの電波に同調する。ちりっ、ちりちりっ。僕のこころに色と光が満ちていく。電波が強くなっていくのを感じる。きみが来る、きみが来る。
「おはよう、ごうちゃん」
「おはよ、瑠璃子さん」
「くすくす。一緒に学校にいこうよ」
・・・
「きーんこーんかーんこーん」
昼休みだ。学食の売店でパンを買う。焼きそばパンだ。普通の電波の力であたためて、屋上にのぼる。重い扉をひらく。
ぎぎぎぎぎぎ
屋上には、なぜか、あまり学生はあがってこない。さて、いるかなーきょろきょろ。いた! 今日も彼女はそこにいる。電波をつかえば声をかけなくても呼べるけど、あえてつかわない。そろーり、そろーり。建物のかげからこっそりとちかづく。くふふ、びっくりするかなー。
うしろからだーれだ、とかしようと思ったら、とつぜんふりかえった。
「どわわっ」
「いけない、いけない、おどろかせちゃったよ」
いつものくすくす笑いで笑う。
「ごうちゃんも電波あつめにきたの?」
「瑠璃子さんとお昼一緒にたべようと思って」
「あ、そうだね。一緒にたべようか」
「瑠璃子さんはお弁当?」
「そうだよ。ごうちゃんは?」
「あ、僕は売店のパン。電波いり」
「くすくす。ねえ。明日から私がつくってきてあげようか…」
「え、ほんと。うんうん。うれしいなー」
・・・
今日のお昼は、いつもの電波パンとはちがって、瑠璃子さんお手製のお弁当だ。
瑠璃子さんは、いつもとかわらぬ姿勢で屋上にいた。ただ一つ違うのは、今日はいつもより大きいきんちゃく袋をさげていることだ。その焦点のあわない澄んだ瞳で、なにか、大切なものをみつめながら、誰かの「キモチ」に耳をすませている…。しばらくぼうっと瑠璃子さんを眺める。…瑠璃子さんがゆっくりふりむく。
「ごうちゃん、お昼にしようよ」
…瑠璃子さんのお弁当…ごはんには梅干しひとつに味付けのり。卵焼きに、たこさんウィンナーに、肉じゃが。かんぴょうまきに、ほうれんそうのおひたしがうれしい。なかなか家庭的だ。腕はシェフなみ! とまではいかないけれど、瑠璃子さんの「オモイ」がこもっている料理は僕にとっては最高だ。
「どうかな? ごうちゃんの好きなものはわかるんだけど…」
「うん、とてもおいしいよ!! もぐもぐ。卵はもうちょっと濃いめ味のが好きかな」
「わかった。こんどからそうするね」
「あ、あの…またつくってもらえるかな…」
「もちろんだよ。くすくす」
こうして僕たちはなごやかなお昼休みをすごすのであった。
「はい、デザートはね、瑠璃子のぷりん、電波風だよ」
「電波風って…」
「うん、おにいちゃんに頼んで電波でむしてもらったの」
「!」
「くすくす。冗談だよ。うちのコンロが電磁式なだけ : )」
(完)