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―― もうそうにっき


〜キエタ・チカラ〜

キーンコーンカーンコーン〜♪

退屈な授業が幕を閉じる。教室にざわめきが帰ってくる。さ・て・と♪ 屋上にいこう… いそいそ。

今日も彼女はそこにいる。見えないチカラでみんなの声をきいている。あつまったオモイたちは。あたたかい力で浄化され、あるべきところにもどっていく…瑠璃子さんを、しばらく、ながめる。ゆっくりと、ちかづく。後ろから、だきしめる。ぼくのオモイが彼女にはいっていく。彼女のオモイがぼくにはいってくる。言葉はいらない。しばらく、そのまま。

「…そろそろ帰ろうか」

「うん」

…二人ならんで歩く。体育館のとなりにさしかかった。バレー部の練習する声が聞こえる。そのとき…

「キャーあぶなーーーーーい」

「へ?」

バレーボールがこちらにむかってとんで来る。あわててさける。

ぼーーーーーん

「あれ?」

うあああああ、瑠璃子さんに直撃ィィィ

ふらっ…

あわててだきとめる。

「瑠璃子さん!しっかり」

「ちょっとちょっと!大丈夫?」

たたたたっっと女の子がかけてくる…さおり〜ん(;_;)

「う〜ん」

「あ、きがついた」

「ごめんなさい…大丈夫?」

「くすくす。だいじょうぶだよ」

「ああ、よかった」

新城さんはあたまをさげながら帰っていった。

「ふう」

「……あれれ」

「ん?どうしたの?瑠璃子さん」

「電…波…を、…感じ…ないの……」

「えっ」

〜フルエル・ココロ〜

…瑠璃子さんがこきざみに震えている…

「ど、どうして…、聞こえない、見えない、感じない…さっきまで、あんなにはっきりと……、私、私、こんな、、、!!」

瑠璃子さんの様子はただごとではない。こんなとりみだした瑠璃子さんははじめてだ。

「ごうちゃん、私どうしちゃったの?ねえ、ごうち…きゃっ」

ぼくは、瑠璃子さんをかかえるようにぎゅっとだきよせる。周囲の目がちょっと気になるかな(^^; ってそんなことを考えてる場合じゃなくて…

「落ち着いて瑠璃子さん。だいじょうぶ。だいじょうぶだよ…」

どきどきどきどきどき… どくんどくんどくんどくん…

「はーい、深呼吸〜♪ すってーーー、はい、はいてーーーーー…」

とくんとくんとくん…とくとくとくとく……

どうやらすこしは、落ち着いたようだ。震えもおさまったらしい。

「さて、だいじょうぶ?瑠璃子さん」

「うん…ありがとう、ごうちゃん…」

〜ミエナイ・キモチ〜

どうやら、さっきのさおりんアタックによるショックのせいらしい…

「電波」は人の脳と密接につながっている。どんな人でも、怒ったり、泣いたり、笑ったり、感情をあらわにするときには、電波の力が介在している。だからこそ、逆に、「毒電波」によって人の脳をあやつることができるのだ。瑠璃子さんはかなり小さいころから電波の力が使えたそうだ。人の心の動き、とくに激しい感情の動きをともなうものはもれでてくる電波から感じることができる。この力がとつぜんなくなってしまうことは、瑠璃子さんにとっては目がとつぜん見えなくなったことに等しいのかもしれない。

…とりあえずここだとなんなので、瑠璃子さんの家にいくことにする。その道中、瑠璃子さんはぼくの腕にぎゅっとしがみついたままで、一言も喋らなかった。

「瑠璃子さん、電波が見えなくなったんだよね?」

「…うん…」

「とりあえず、ぼくがアンテナになってみるよ。電波を感じてみて」

「……うん…」

瑠璃子さんが顔を僕の胸にうずめる。細い体がいつもにもまして細く感じられる。瑠璃子さんを傷つけないように、慎重に電波を練り上げる。電気の粒が、ゆっくりと瑠璃子さんへと流れ込んでいく。

ちりっ、ちりっ

「どう?、瑠璃子さん」

ふるふる。瑠璃子さんが首をよこにふる。

「…駄目だよ」

瑠璃子さんが困った顔になる。

「ねえ、ごうちゃん。私、もうごうちゃんのあったかい電波を聞けないのかな。もう私のオモイをごうちゃんにつたえることもできないのかなぁ」

瑠璃子さんが泣きそうな顔になる…

〜シンジル・オモイ〜

「私、私…」

瑠璃子さんの目にうっすらと涙がにじみだす。蒼い宇宙の深淵のような瞳に、僕の姿がうつる。そこから溢れ出るひと雫。瑠璃子さんの顔に手をのばし、雫のあとをぬぐう。

「あっ…」

顔をちかづけて、触れるだけの口づけ。瑠璃子さんの細い体をだきよせる。ちょうど瑠璃子さんが僕の胸に顔をうずめる形になる。瑠璃子さんの頭をやさしくなでる。さらさらした細い髪。瑠璃子さんの髪の毛。

「…ねぇ、瑠璃子さん。僕の心臓の音、聞こえる?」

こくん。うなずく瑠璃子さん。

「電波なんかつかわなくてもいいんだよ。瑠璃子さんの心臓の鼓動、いきづかい、さらっとした髪、あたたかい体温。きれいな声。ぼくは、ぼくの全部の感覚をつかって瑠璃子さんを感じるんだ」

「ごうちゃん…」

「それだけじゃないよ」

「…?」

「信じるんだ」

「!…」

「僕は瑠璃子さんが大好きだよ。そして、瑠璃子さんも同じだと信じてる。電波や、言葉や、直接の感覚がなくても。ぼくは瑠璃子さんを感じることができるんだ」

「…ごう…ちゃん…。ひっく…」

瑠璃子さんは次々とあふれでる雫を隠すように僕にしがみつく。僕はそんな彼女の柔らかい髪の毛をやさしくなでつづけるのだ。

〜ツナガル・ココロ〜

登校時間。今日も良い天気だ。一緒に学校にいこうと思って瑠璃子さんの家にくる。

「あっ、おはよう、ごうちゃん」

笑顔で瑠璃子さんが玄関からでてくる。ふたりならんで歩く。すっと一陣の風がふきぬける。

「きゃっ」

髪の毛とスカートをおさえる瑠璃子さん。……水色か… (なにが?)

「あっ、ごうちゃん、みたでしょ」

「えっなにを? (汗…)」

「くすくす…ねぇ、ごうちゃん」

瑠璃子さんが腕にしがみついてくる。

「世界っていろいろ綺麗なんだね。太陽はあったかいし、風はきもちいいんだ。電波ばっかりにたよってたからみえなくなっちゃってたよ…このあと力がもどってくるか、こないか、わからないけど。もういいんだ。ごうちゃんがいてくれるし…」

風になびく瑠璃子さんの髪がぼくのほおにふれる。電波の力はなくても、ぼくたちの心はいまも、そしてこれからも確実につながっているんだ…

〜ソレカラ・ソレカラ〜

ちりちりちり…

あれから1週間が過ぎた。瑠璃子さんも電波のない生活にまあまあ慣れたようだ。問題もなくはない。どうもいままで無意識のうちに電波で周囲の状態を確認していたようで (あくちぶソナーか…(ォ)、よくものにつまづいたり、人とぶつかったりする (^^;。あと、ぼくにくっついてることが多くなった。単にそばにいるのでなく、文字通りくっついてる…ちょっと周りの視線が痛いかも(^^;;;<かなりうれしいらしい

閑話休題、さて、今日も下校時間だ。瑠璃子さんと一緒に帰る。体育館の横をとおりかかる…今日もバレー部は元気に練習してるようだ…

「キャー、あぶなーーーーーい」

はっ、このシチュエーションは!!! ボールがこっちにせまってくる。

ふっ…

「トス!!」

うまくボールをはじく…

「あたーーーーーーーーっっく」

っておい!!!

「あぶない!!」

今度は瑠璃子さんをちゃんとかばう…がはぁ、ボールは僕の背中に直撃…

「新城さ〜ん (;_;)」

「ご、ごご、ごめんなさい、つい…、あれ? 私の名前知ってるの?」

う、まずい

「ま、まあいいよ、じゃ部活がんばってね〜」

そそくさとその場をあとにする。ちょっと急ぎ足で歩く。校舎のかどにさしかかったときだれかが突然出てきた…僕はとっさによけたが…

げいん

…鈍い音…すぐ後ろにいた瑠璃子さんと直撃…ふらっ、ああっ瑠璃子さん…。相手の女の子はおでこをおさえてうずくまってる。どうやら相手のほうが石頭らしい。瑠璃子さんは目をまわしている。目鏡をかけた女の子…

「あの…だいじょうぶですか…」

あ゛藍原さんだ…どうもこの二人とは縁があるらしい…

「す、すみません、ちょっと急いでたんです」

「んっ…」

あ、気がついた。

「あ、大丈夫だよ。あとはぼくが介抱しておくから。急いでるんでしょ」

「…そうですか、本当にすみません…」

みずぴーは去った。

「あ、ごうちゃん」

「気がついた?」

「!!!」

突然瑠璃子さんがおきあがる。

「電波が…きこえる…」

…というわけで、瑠璃子さんはもとの電波少女に戻った。あ、以前とはちょっと違うかな。ま、なにはともあれよかったよかった (^^;;

「くすくす」

「?」

「だいじょうぶだよ、ごうちゃん。電波つかえても、これからもずっとくっつくいてるからね (ぴとっ)」

「え、あのっ (^^;;;」

(完)