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――妄想冒険活劇? 〜丸いふたの底で〜


今日は雨が降っている。昨日も雨だった。明日も雨らしい。こう雨ばっかりつづくと気分がめいってくるな。……ここはいつもの教室。週末の放課後。空中にただよう電気の粒は、空からの粒にすいこまれて、地上へとふりそそぐ。地上にたたきつけられたその粒は、やわらかい地面にすいこまれて消えることはなく、固いものにおおわれた地面をながれ、ながれ、排水口へとすいこまれていく。排水口にすいこまれたチカラの粒は、細い管から中くらいの管、中くらいの管から、太い管、うずまき、うごめき、からまり、あつまる。そして、いまや濁流となった粒は、出口を求め、ひたすら下水道の中を流れていくのだ…

「ごーうーちゃーん」

はっ!!!

「くすくす」

世界が急速に戻ってくる。

「どうしたの、ぼーっとしちゃって」

「いやー、雨続くなぁって」

「最近多いよね」

「うん。ま、来週には晴れるそうだし。晴れたらどこかいこうか」

「うん :-)」

「じゃ、今日はもう帰ろうか」

…学校の玄関

「ねぇ、傘一つじゃだめかなぁ」

「え、あ、そうだね (^^;」

一つの傘に二人の人…。あれ(log 11)以降、瑠璃子さんと僕の仲は学校ではあたりまえのことになってるので、堂々とこーいうことができる。ふっふっふ。

たわいもないおしゃべりをしながら帰る。と、そのとき、背筋に強烈な感覚が走るのを覚えた。瑠璃子さんの顔に緊張が走る。マンホールのすき間からもれでてくるもの。それはとても微弱だけど、たしかに、そう、毒電波だった…

ちりちり、ちりちり、ちりっ…

微弱ではある…、が、なにか、とても深い、どういえばいいのだろう。言葉にできないが、強い、意志のちからを感じる…

ちりっ、ちりっ、ちちち titi…

消えていく……電波の気配は、非常に広い範囲から感じられた。いったい何がおこっているんだ? 混乱しそうな頭をおちつけるために、瑠璃子さんに話かける。

「瑠璃子さん、今の…やっぱり」

「…うん、そうだね」

瑠璃子さんも驚いているようだ。僕の腕の肘のところをぎゅっとにぎっている。

…電波を感じる。僕達の足の下。うずまき、うごめき、からまり、あつまり…ちからをおびて流れていく。どこに? どこにながれていくの? なにかがおころうとしている。僕達の街で。…たしかめなければ。僕と瑠璃子さんがすむこの街。僕達の生活にしのびよるものは何?

「瑠璃子さん」

瑠璃子さんをじっとみる。こく。うなずく瑠璃子さん。これが、僕達のあの、長い一日のはじまりだった…

・・・

…さて、とりあえず準備だ。

「瑠璃子さん、とりあえず、家に帰って着替えてこよう。濡れにくい格好、あと着替えと防水のなにか鞄とか。えーと細かいものはぼくが準備する」

「うん、わかったよ………くすくす」

「ん、どうしたの瑠璃子さん」

「なんかごうちゃん楽しそうだなぁって」

はう (^^;;

・・・

さて、そろそろ瑠璃子さんくるかな。ここはさっきの場所。いまは毒電波はかんじられない。

「ごうちゃーん、おまたせー」

こ走りでかけてくる瑠璃子さん。おお、黄色のレインコートと長靴。なにか可愛いぞ。なごなご (ってなごんでる場合かおい)。

・・・

ざーざーざーざーざーざーざー

響く音、丸いふたの底。そこは流された電波があつまるところ。

時々流れのなかから飛び出す電波は、コンクリートの壁に反射して、暗い道の中をかけめぐり、そしてまた濁流のなかにとらわれる。

さまざまなココロから紡ぎだされたおのおののオモイ。激しい流れのなかで、それらはバラバラになり、もう、区別はつかない。

ただ、ただ、流れるだけ。

どこへ?

海へ、そう、海にむかって。大地からみはなされたものは、海の腕にだかれることを夢見てひたすらに流れていく。

…もうどのくらい歩いたことだろう。暗い地下道のなかを僕達は歩きつづけている。どこにむかって? …わからない。毒電波は感じられない。この空間にみちているのは、ただの、混沌とした電波だけだ。ただ、電波をおびた濁流に、なんとなく流れの偏りがあるのが感じられる。全てではないのだが、ある一定の方向にむかってひっぱられているようなのだ。僕達はすこしずつそちらにむかって歩いてる。灯りをもってあるく僕のすそを瑠璃子さんがぎゅっとつかんでついてくる。さっきからちょっと静かになってしまった…

― 回想もーど ―

「くすくす。けっこう面白いね。下水道って」

「うん、いろんなものな流れてるもんだなぁ」

たわいもない会話をしながら歩く…

「ちょっと臭いのが難点だね…きゃっ」

通路の水に足をとられて瑠璃子さんがしりもちをつく。

「瑠璃子さん! だいじょうぶ?」

「うん、だいじょうぶだよ…」

そのとき、なにかの動く気配がぼくたちのそばをはしりにぬけた。ぺたんと座ってる瑠璃子さんのひざの上を通過していく…そう、小さくて尻尾の長い、たくさん子どもをうむあの生き物たちだ…

「!!!!!!」

…やっぱ女の子なのね (^^;;;;

ちょっと泣きそうな顔の瑠璃子さん。うみゅう…可愛いかも。とか思いながら歩いてると、突然、そうソレハトツゼンノコトダッタ…僕達に毒電波の波がおしよせてきたのだ…

ちちちぢちぢっぢちぢちちちっちち

小刻みな電波が僕たちに襲いかかる。幾千もの小さな、細かい、鉄球が、体じゅうにつきささるような感覚。肉をさき、骨を砕くような感覚。

「うわぁぁあぁぁぁぁ…」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

僕たちの叫びが深い暗闇のなかに響きわたる。さっき地上で感じた毒電波と同じものだ。だが、力の大きさは、その比ではない。さっきよりも発生源に近いのか? それとも より多くの力があつまったのか? そして、その毒電波にこめられた力は

…「コワセ」…「スベテコワシテシマエ」

突然僕の心に浮かび上がる破壊の衝動。

こわせ、壊せ、コワセ…

なにを?

ボクノシカイニウツルモノ

それはなに?

ボクノタイセツナモノ

なになの?

イトシイヒト

そう

それは

ボクノ

ボクノ

…RURIKO-SAN…

瑠璃子さんが苦しんでいる。細い腕できしゃな体を押え込んでいる。そう、いま、楽に…楽に…僕の手がゆっくりのびる。

と、瑠璃子さんがふりむく。視線が交差する。瑠璃子さんの瞳。深い霧の中に浮かぶ灯のような瞳。僕のなかにもうひとつの力がわきおこる。

こわせ、マモル

こわすんだ

ボクハ・キミヲ・マモル

空間にあふれていた混沌とした電気の粒が僕の周りにあつまってくる。粒は、渦となり、波となり、脳からあふれでる。脊髄にそって流れ、四肢を支配する。僕は自由をとりもどした。…この毒電波は膨大だ。が、その力の向きがそろっていない!! 電波で防壁をつくれば、瑠璃子さんをまもることができる。僕は瑠璃子さんをだきよせた。背中に伸びた瑠璃子さんの手が、ものすごい力で、僕の背中をかきむしる。

「くっ」

そんな痛みなんて気にしてる場合ではない。瑠璃子さんを傷つけないよう。僕たちの周りに電波を走らせる。…完全ではないがこれでだいぶ力をよわめることができるはずだ。

……どうやら危機は去ったらしい。周囲の毒電波はじょじょに弱まり、そして消えた。…瑠璃子さんが泣いている。

「ごうちゃん…」

「もうだいじょうぶだよ」

僕は彼女の涙をぬぐい、かわいいおでこにそっと口づけをした。

・・・

ぴちゃん…ぴちゃん…

水の雫のはじける音。ふう。ここは途中にあった整備室のなか。毒電波がいつくるかわからないので、念の為、僕の電波をめぐらせている。ちょっと面倒だけど。外からは水量が少し増した水のながれる音がする…。瑠璃子さんは、つかれた顔をして、ぼくにもたれかかるようい座り込んでいる。無理もない。ふぅ。僕もさすがにつかれたな。さて…

「るーりーこさん」

「なに、ごうちゃん…」

「チョコ食べる? もってきてあるんだ」

ごそごそ。ふっ、とりいだしたるはチロルチョコ。じつはけっこう好きだったりする。

「あっ、ありがとう…。ごうちゃん準備いいねぇ」

「ふっふっふ、いちご味やミルク、クッキーもあるよん」

「くすくすくす…」

よかった。瑠璃子さんの顔に笑顔がもどった。

「ちょっと寒いね…」

「そうだね。もっとそばにおいでよ」

「うん…」

レインコートはぬいでおこう…、いてて、さっきの傷か…

「!! …ごうちゃん、さっきの私の…」

「ん、ああ大丈夫だよ」

「だめだよ。ちゃんと消毒しないと…」

むりやり服をぬがされる……

「瑠璃子さん、ミニ救急セットなんて、準備いいねぇ」

「くすくす」

・・・

「……ねぇ、瑠璃子さん」

「なぁに?」

「さっきの電波、どう思う?」

僕の胸に顔をうずめるようにもたれかかってる瑠璃子さんに話かける。

「どうって…」

「さっきの電波って、僕たちを狙ったわけじゃなくて、ただ出口をもとめていただけのように思えるんだ」

「うん」

「あと、なにか、もうひとつ、「壊せ」以外の感情を感じた。瑠璃子さんはどうだった?」

「…そうだね。なにかとても悲しいかんじがしたよ…。ちょっと前の私やごうちゃんと同じ。たすけてっていってるの…」

・・・

ぱりっ、ぱりぱりっ、空間を紫電が走る。通路の途中から急激に電波の密度と圧力が高くなっていく。

ここは地の底。いくつもの流れがあつまる場所。丸いふたの、深い闇の、底の底。「オモイ」を帯びた濁流は、ここに向かって流れていたのだ。集められた電波は一つの「意思」のもとに、強制され、統合され、渦を作っていた。

その意思とは? そう。「コワセ…」すべてのものに対する破壊の願望。電波の密度と量はどんどん増えていくようだ。今度これが放出されたら? …もし、さっきのよりもさらに強力になっていたら? …そう、ぼくたちすらも耐えられないだろう。いわんや街の人たちは…

「……いくよ。瑠璃子さん」

「……うん」

瑠璃子さんを胸にかかえこむように抱く。彼女は僕の電波の力を増幅してくれる。でも一番重要なのは、僕が瑠璃子を強くかんじられること。彼女がいるかぎり。僕は僕でいられる。脳内の一点に力を集中し、イメージをかたちづくる。

――集まれ――

光の粒が僕の周りに小さなうずをつくる。渦はどんどん大きくなり、大きなかたまりとなる。その中にこめる力は?

「きえてしまえ」

電波と電波がぶつかりあう。僕のナイフのような電波が、混沌とした破壊の衝動を切りきざんでいく。どうやらあまり心配したほどのことはないようだ。…この電波の正体はいったい? ぼくは目をこらす。闇のなかに浮かぶいくつもの光。……瞳? そのとき、突然毒電波の勢いが増した。

「ぐっ」

ばらばらな方向を向いていた電波が、すべて僕たちにむかって襲いかかってきたのだ。しまった。力を強化する。きえろ、消えろ、キエロ!!!!

「イヤダ・キエタクナイ」

相手の力がぐんと増す。…だめだ、押し切られてしまう…瑠璃子さん…、僕は君をまもれないのかい? …

―くすくす―

???

―だめだよ、ごうちゃん。それだと。いつものごうちゃんなら…―

そうか!!そうだ。そうなんだ。

僕はまもりをとく。毒電波が堰を切ったように流れこんでくる。わきおこる破壊への衝動。でも、僕はもう一つの意思をその中から堀りおこし、同調し、増幅する。

「…タスケテ」

――いいよ。ぼくが助けてあげる…

ちりちりちりちりちりちりちり

とても、とても細い意識。助けを呼ぶ意識。僕はそれに同調し、そして増幅する。僕の脳に流れ込む毒電波は、その方向をかえられ、その意識と歩調をあわせていく。どんどん増加する「意識」は毒電波とからみあい、まざりあい、そして互いに打ち消されて消えていく。その中で、僕達は、その電波をつむぎだしていた者たちの声を聞いた…。毒電波を発していたのは人ではなかった。かつては人に飼われていた動物たち。すてられた小さい生命たち。

…かつて人にかわいがられていた彼らは、ある日突然すてられ、苦境のどんぞこにおとされた。

クルシイたすけてなぜボクがこんなめに?

人間への友愛が憎悪へと変質する。彼らのうちの誰がどうやって電波を使えるようになったのかはわからない。とにかく、おなじ境遇の彼らは、ここに集まり、ヒトへの復讐の時をひっそりと待っていたのだ。…でも、彼らの心の奥底に、まだ人を信じたいというココロが小さく消えそうになりながらものこっていた。ココロは、みずからの暴走を止めたくて泣いていたのだ。

……毒電波が消えていく。「ア…リ…ガ…ト…ウ」そんな声をきいた気がした。

すべてが消えたあとに残されたもの。それは重なり合うようにして寄り添う彼らの冷たくなった体だった。

「…これでよかったんだよね」

「…うん…あっ」

折り重なる体のなかから瑠璃子さんがだきあげたもの。

「みゅー」

それは2匹のちいさな子猫たち。瑠璃子さんの顔に笑みがもどる。

「ねえごうちゃん。この子たち、かってあげようよ…」

・・・

こうして僕達の長い一日はおわった。帰り道。さーさーさーさー。まだ少し雨が降っている。明日は晴れるかな。子猫たちは僕達の胸にだかれてすやすやと眠っている。それぞれが一匹づつ飼うことにした。

「ねえ、ごうちゃん」

「ん、どしたの、瑠璃子さん」

「この子たち、なんて名前がいいかなぁ」

「そうだねぇ」

僕の猫は前身白毛で、蒼い透き通った瞳を持っている。ちなみに瑠璃子さんの猫は、前身真っ黒で輝く金色の目。そうだなぁ…ひさびさの選択肢!!

  1. やっぱスタンダードに「たま」だな
  2. いや、ちょっと凝って「にゃるぁらほとてっぷ」なんてどうだろう。通称「にゃる」
  3. ふむぅ、かわいいしメスだから…「るりるり」ってだめかな

よし、だぁ。

「えっ」

きょとんとする瑠璃子さん。

「くすくす。じゃあ、私のほうは「ごうちゃん」ってつけようっと」

…そろそろ瑠璃子さんの家だな。

「なんかびしょびしょになっちゃったね」

「そうだねー。熱いお風呂にでもはいってさっぱりしたいとこだね〜、そうそう、明日はれたら…」

「くすくすくす」

「ん?」

「ねえ、いま家、たぶんだれもいないよ」

瑠璃子さんの細いたれ目がもっと細くなる。

「…一緒にお風呂はいっていかない…?」

(心の声:これがかきたかったんやー (自爆))

(完)